大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)1012号 判決 1971年5月18日

控訴人(第一〇一二号事件)

山辺一郎

他十名

右十一名相続財産管理人

中元兼一

代理人

中村俊輔

外二名

控訴人(第一〇二七号事件)

松浦砂夫

他三名

代理人

小林保夫

外三名

被控訴人

木村英樹

代理人

黒田常助

外一名

主文

本件各控訴はいずれもこれを棄却する。

各控訴費用は各控訴人等の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所は、控訴人等に対する被控訴人の請求をすべて正当と認めるものであつて、その理由は、左記の点を補充、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用(但し、原審被告宮西トシエに関する請求の判断部分を除く)する。

(1)ないし(3)<省略>

(4)同一〇行目の次に、左の通り附加する。

「なお、本件では第一〇一二号事件の控訴人等十一名につき、相続財産管理人として中元兼一が本件訴訟を担当しており、右管理人は、被相続人である亡山辺槇太郎の相続に関し、相続人の一部の者よりの申立による相続財産保存命令申立事件(大阪家庭裁判所昭和三八年(家)第三八六〇号)について昭和三九年八月七日に為された選任審判(家事審判法(規則の誤記であろう。編者註)第一〇六条に基くもの)により選任されたものであることが記録上明白であるところ、この種の相続財産管理人の法律上の地位、特に、右管理人の意思と本人たる相続人等の意思の相互関係については若干の論議があり、疑念がない訳でもないので、以下に右中元の代理人としての権限行使が正当であるか否かの点につき検討するに、相続財産の保存管理処分が許される場合には各種の場合があり(家事審判規則第一一八条参照)、一般的にこれを論ずるのは必ずしも適当ではなく、かつ民法第九一八条は管理人を選任した場合の本人たる相続人の権限について、商法第三九八条第二項の如き明確な規定は置いていないけれども、民法第九一八条第三項が不在者財産管理人に関する規定(本人が不在で、その意思を求むべくもない場合)を準用している点、同条第二項により、相続財産管理人の選任の制度が、その結果として当然に相続人自身の処分権を剥奪する効力のある相続財産の処分禁止までを含む財産保全の強制的処分の一環として設けられている点から、本件の如き遺産分割の申立がなされた場合の管理人選任処分は、分割前の相続財産に関する相続人間の意思不統一に基く混乱や、一部相続人による相続財産の管理処分の不適正に基く財産の散逸損壊等を防止する等の処分目的と、選任された管理人と相続人との間の権限の牴触による混乱を避け、処分の効力を最も効果的に発揮せしめる趣旨から選任処分の反面には、本人たる相続人の管理権について、その一時的な行使の制限の処分を当然に含むものと解釈するを相当とする。そうすると、本件の財産管理人中元は、本人たる山辺一郎ほか一〇名の相続人に代つて、即ち、その者等の法定代理人として、管理人自身の意思で管理権を行使することができ、その一環として本仲訴訟の被告(控訴人)としての権限を代行することができるものというべく同人の権限行使は正当と認むべきである。」

そうすれば、被控訴人の請求を認容した原判決は正当で、控訴はいずれも理由がないから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。(宮川種一郎 林繁 平田浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例